今夜ユウノカリイショ

エッセイや小説を投稿いたします。拙いですが、よろしくお願いします。

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

夜の影帽子【8話】互いの悩み

ジョーは影帽子に来なくなった。最後に朝まで飲んだ日から一週間は経つ。毎日のように顔を出しては飲み交わしていたあの夜がすでに懐かしく感じる。今にも勢いよくドアを開けて入ってきそうな彼に柄にもなく披露したい皮肉や冗談がこの期間にいくつも思いつ…

夜の影帽子【7話】人間の子供

「おおロデオ!あなたはどうしてロデオなの!?」 少女は白昼堂々、影帽子屋の真ん中でマネキンに喋りかけるのに夢中であった。古い恋愛小説の台詞だ。 「あのぉ、ミラ…さん?ちょっとうるさいんですけど?」 クロの一件以来、ミラは影帽子にほぼ毎日のよう…

夜の影帽子【6話】トランプ

今夜もジャンとジョーは酩酊の中トランプゲームに興じた。酔ってると適当に雑談しながらババ抜きをするのがちょうどよかった。 「今日は街にいかないの?」 カードを選びながらジャンは訪ねる。 「んー?ああ、やっぱりこの店が一番落ち着くと思ってな。」 …

夜の影帽子【5話】天使と悪魔

ドアが開いた。そこには一人の少女が立っていた。白いワンピースの彼女は黒猫を抱きかかえている。寝ぼけていたから天使が悪魔を懲らしめにきたのかと思ったが、彼女は今にも泣き出しそうな表情でジャンに尋ねた。 「あの、魔法は…ここで買えますか?」 息を…

夜の影帽子【4話】マダムステラ

「これも素敵ね。でも…こっちの方がいいかしら?」 「どちらもすごくお似合いですよ〜。」 マダムステラは鏡の前で帽子をかぶっては外し、十あった候補の中からようやく三つに絞りこめた。彼女の場合はここからがまた長い。 ジャンの表情筋は限界だった。そ…

夜の影帽子【3話】吸欲

とある街で二人の旅人がすれ違った。一人は西の方角から馬にまたがり、一人は東の方角から馬車に乗っていた。この街ではよくある光景である。しかし二人には共通点があった。それは二人とも魔女であったこと。お互いに目を合わすこともなくすれ違う。二人が…

夜の影帽子【2話】西の都ジュリアナ

西の都ジュリアナ。海に面した港町は蟹が有名だった。異国から毎日多くの旅人が訪れる観光地である。 この街では微かに魔法の匂いが残っていた。歴史は古く、人々がまだ魔法を愛し、愛されていた時代に先人の魔法使いを中心に築き上げた街なのだ。街の動脈で…

夜の影帽子【1話】悪魔のジェニファー

「むかーし、むかし。ある所にジェニファーという一匹の悪い悪魔がおりました。」 「ジェニファーは毎日のように村人に悪さをしては楽しんでおりました。」 「そんなある日、ジェニファーは魔法の杖を拾いました。ジェニファーは喜びました。」 『しめしめ、…

夜の影帽子【プロローグ】海を見つめて

港を離れた蒸気船が汽笛を鳴らした。カモメを上空を舞い、無数の銀の光が海面で飛び跳ねた。空気を震わす重低音が生き物達の一日の始まりを告げる。 波は待機中のイカダを揺らし、風は潮の匂いを街中に届ける。海沿いの建物に住む人間達ももうじき目覚めるこ…

明太子を盗まれた。

表参道に連なる、綺麗に磨かれたショーウィンドウ。僕は歩きながら横目にちらちら気にしていた。店内のナイキシューズや、ブランドのバッグなどでなく。窓に映った自分の髪型だった。 気持ちが雲に覆われた。大したことではなく。ほんの些細な話しだこれは……