今夜ユウノカリイショ

エッセイや小説を投稿いたします。拙いですが、よろしくお願いします。

戻すなよ。

 疲れてるねって言われたらもっと疲れてしまうのは何故だろう?

 やはりそうですか。と身体は確信しその言葉にもたれかかってしまう。疲労は増して、妙な納得と微々たる安心感を同時に手に入れる。きっと僕は誰かに甘えたいのだ‥。

「いささか気持ちが悪い。」

 駅のホームへ上がる階段の一段一段昇るたびに体重を感じる。確かに疲れてるのかもしれない。しかしこないだの二日酔いの気怠さに比べたら遥かに楽だと思う。

 

  地元の友人達と久しぶりに飲んだ。大衆居酒屋だが少し上質なようで、値段は多少はる。お通しの生野菜がアートのようだった。僕はいつものように乾杯の直後に届いたつまみ(アジフライだったかな?)に箸を伸ばし、頬張った。美味しい。美味しい以外何も考えていなかった。

 ふと、友人の1人から「ゆーすけが食うとまずそうに見えるよね。」と言われた。

 えっ‥えー? 逆では?? 耳を疑った。

 その時の僕の顔は引きつっていただろうか?それともちゃんと笑えていただろうか?どんな顔をして返せただろうか。ただただ驚いた。衝撃的な事実であった。

 食べることが唯一、日常における楽しみであり救いである。そして人が美味しそうに食べ物を口に運ぶ仕草、表情、咀嚼音。それらが僕にとって唯一人間の愛おしいと感じる瞬間なのだ。映画やドラマの食事シーンが好きなんだ。そんな僕が、僕自身の食事シーンで人から食べ物がまずそうに見えると言われてしまったことはいささかショックであった。別の友人が追加した言葉が「卑しいよな。」とな。それがきっとヒントである。

 よく昭和映画の食事シーンがまとめられた動画をYouTubeで見る。時代かな。男達は貪るように無我夢中で食らいついているものが多い。おおげさと言ってしまえばそうだが、僕が好きなのは上品に口に運ぶものよりも、むしろがっついて食べる映像の方が好きだったりする。無意識のうちに真似をしていたのだろうか?しかしそれだったら下品でも不味そうにはならないはずだ。

 そういえば僕はガリガリだが、「卑しい」という印象と容姿が相まってるものだとしたら、僕は手の施しようがないではないか。何がいけなかったんだ?何がそう感じさせたのだ?食べた時の表情はどうだっただろうか?笑っていなかったのだろうか?箸の持ち方は?咀嚼音?歯並び?

 昔付き合っていた彼女と和風レストランに行ったときのことを思い出した。彼女の向かいで定食を食べた。彼女に気に入られるように僕は美味しそうに食べてるように演出した。味の素のCMの俳優を参考にしたのではなかっただろうか?いただきますも言ったよ。器を箸を意識して持った。僕は狙って丁寧に、さも美味しそうに食べた。当時僕はズレた策士だったようだ。いささか気持ちが悪い。

そうしたら彼女が笑顔でこう言ってくれた。

「ゆーすけの食べてるとこ好き。」

 

 あれから6年を経て僕はどうやら汚れてしまったようだ。(あざとく綺麗に食べたのだから昔も黒といえば黒だ。)少なくとも今なお恋人がいればもっと綺麗な食べ方を心得ていたのだろうか?貧乏の一人暮らしが長いといざ人と接するときにこういった生活の質や習慣が滲み出てしまうから恐ろしい。隠しきれないのだ。

 よく人の靴を見ればその人が分かるというが‥それ以上に食べ方を見ればもっとその人の事が分かるような気がしている。もっとも第一印象から打ち解けてご飯に行かねばならないのだけれども‥。‥話しが脱線。

 

  カラオケに行った。その前に友人が芋焼酎を一升開けるもんだから、すっかり僕は‥僕だけ出来上がったいたのだ。思い返すとすでに記憶がおぼろげである。酒に弱い。

 歌のうまい友人に布施明君は薔薇より美しい」を本気でリクエストしたかったのにもはや誰が何を歌ったか。自分が何を歌ったかさえ思い出せない。

 誰かのラルクの「レディスタディゴー」の合いの手を全力でしたこと(やりすぎて膝がテーブルに当たり飲み物をこぼし床をベチャベチャにした。みんな怒ってた。ほんとごめんなさい。まだ友達でいてください。)

  そのカラオケ店の脇の路地で吐いたこと。(本当にすみませんでした。)汚い食べ方にしてもまだ粗末にしてないだけマシだったのに。戻した時の嘔吐物はモザイクのようにキラキラ光っていた。

 24歳にもなってどうしようもなく情けなくなる。しかし最もいけなかったのは1人で金だけ置いて黙って帰ってしまったこと。我ながら自分勝手な本性に驚いてしまう。初めて一人でタクシーを拾った。ベロベロでクタクタだった。

 

 タクシーがあの時の和風レストランを横切った(気がした。)

 「思い出に唾を吐く」という歌詞は聞いたことがあるけどもまさかゲロを吐くとは思わなかった。下衆な行為である。

思い出にはいつだって感謝してるんだ。

‥そういえばあのこは元気だろうか?

 汚れてしまったということは経験して大人になったということでもある。僕はこれからも汚れていく。それを成長と捉えて、

「進んでください。」

「そこ、右です。」

「ああ、ここで停めてください。」

 

 深夜料金は馬鹿にならなかった。次の日は二日酔いでゾンビのように仕事をした。麦茶でさえアルコールの味がした。